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「それじゃあテスラ、行ってくるね」
「ちゃーんとあーちゃん送り届けたるから安心してや」

モニカさんとミラさんについていく形で早速リバーウッドという村へ出発することになった。
ミラさんが言う、あーちゃん、というのは私のあだ名らしい。テスラさんの事もテっちゃんと呼んでたしあだ名で呼ぶのが癖なのかもしれない。
ホワイトランの外門のところまで見送りに来てくれたテスラさんが軽く私の頭を撫でる。

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「この二人が一緒なら心配はいらないけど気を付けて行っておいで。
 私は大体ドラゴンズリーチにいるから、何かあったらいつでも訪ねてきていいからね。
 ――行ってらっしゃい」

私を助けてくれたテスラさん。私に初めての優しさをくれた人。
寂しさに胸を締め付けられながら手を振りかえして私はホワイトランを背に歩き出した。 


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「言うても歩いて1時間くらいやからそんな離れてへんのやけどね」
「ミラ、今ちょっと感動の別れだったんだから…」

呆れ顔のモニカさんについ笑いが込み上げる。
寂しさを和らげようとしてくれているのかな、と自分にそう都合のいい考えが浮かぶけれど外れてはいないだろう。

「あの、リバーウッドってどんなところなんですか?」
「のどかなところよ。名前の通り川が傍にあって木々があって、林業が盛んなんだけど近くに鉱山もあるから働き口には困らないって感じかしら」

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「シロディールの方からホワイトランに向かう人が立ち寄ることも多いし過ごしやすいところやと思うで」
「近くにはヘルゲンっていう町もあってね――――」

二人と一緒に並んで歩きながら、リバーウッド以外にもスカイリム地方の地理について教えてもらう。

「……どう? 聞き覚えのある名前とかあった?」
 
一通り都市と村の名前を挙げたあと、モニカさんが私の顔を覗き込む。ホワイトランを出る時に私が全ての記憶を無くしていることは伝えてあった。
どれも初めて耳にする名前ばかりで軽く混乱したまま首を横に振ると、ミラさんが両腕を組み唸り声を漏らす。

「となるとスカイリム出身ちゃうのかなぁ…シロディールとかモロウィンド方面となるともう検討もつかんわ。
 とりあえずスピジャンでいろいろ話聞いてみるのはええと思うよ。国境近いからいろいろ噂も聞けるしな」
「そうね。ただ…記憶がないってのは本当に信頼できる人にしか言わない方がいいと思うわ。ライアーみたいに若い女の子だとそれにつけ込む奴は多いだろうから」
 
モニカさんの形のいい眉が寄せられて、真剣な声での忠告にこくこくと頷きを返す。

「そう、します」
「うんうん。男はオオカミなんやからな、気をつけなあかんで! ウチらみたいな可憐でか弱い美少女はペロリやペロリ!」

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そう言いながら道の脇からいきなり襲いかかってきた野生の狼をあっさりと倒してしまった二人の姿に、私は驚いていいのやら安心していいのやらでどういう表情をすればいいのかわかりませんでした。


そうこう話しているうちに、 立ち並ぶ木々の向こうに民家の屋根が見えてきた。
流れる水の音に混じって丸太が割れる重い音が聞こえる。鳥の声とはしゃぐ子供たちの気配が耳に心地いい。

「あ、ついたついた」
「ね、すぐだったでしょう。早速デルフィンさんにお願いしに行こっか」

川にかかった橋を渡ってすぐ左手、「スリーピングジャイアント」と看板に書かれた宿の扉をくぐる。
確かに宿の中には数人の旅人らしい姿があった。錬金するための台もあって、やっぱり薬を持ち歩く旅人のために置いてあるんだろう。
モニカさんとミラさんはまっすぐカウンターに向かうと、そこに立っていた男性に話しかけた。 

「こんちは、オーグナーさん!」
「ああ、ミラにモニカ。鉱山のやつらを片付けに来てくれたのか?」
「ええ、でもその前にちょっとデルフィンさんにお願い事があって。今話せるかしら」

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早速モニカさんがテスラさんの手紙を取り出しながら尋ねるも、対する男性、オーグナーさんは苦々しい表情を浮かべる。

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「デルフィンに? 残念だが、彼女は二日前から宿を空けてるんだ。いつ帰ってくるかもわからない」
「えっ、いない…!?」
「ああ。部屋もよく見知った顔にしか貸すなとさ。お前ら二人なら問題はないが」
「部屋だけ借りても意味ないねん! この子、あーちゃんていうねんけどここで働かせてもらえへんかなって…オーグナーさん、なんとかならへん?」
「そうか…すまない、知っての通り俺はただの料理人だから、俺の一存で決めることはできないんだ」

本当に申し訳なさそうなオーグナーさんの答えに、私たちは顔を見合わせる。

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「まさかデルフィンさんがいないなんて…これじゃあ暫くここには置いてもらえそうにないわね…」
「今日はウチらと一緒やからええとしても、明日さすがに鉱山までは連れていかれへんからここで待っててもろて」
「問題はその後、ですよね…」

二人の仕事が終わったら。
せっかくここまで連れてきてもらったのに、またホワイトランまで戻らなきゃいけないのかな。
戻ったところで一度衛兵に連行されている私に居場所はあるのだろうか。
二人にあまり甘え過ぎてもいけないとわかっていても、この不安を口にすれば二人は何かしら手伝ってくれるのだろう。それが分かるから私は何も言えなくなって口を固く引き結ぶ。
私の気持ちを待っているのか、二人も口を閉ざしてしまったその時。

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「何かお困り?」

不意に声をかけられて振り向くと、一人の女性が柔和な笑みを浮かべていた。

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「「セラ!」」

モニカさんとミラさんが二人同時に声をあげる。
 
「どないしたん、めっちゃ久しぶりやんか!」
「大学に講義しに行ってたんじゃなかったの?」
「うん、でもそれも終わってこっちに帰ってきたの」
 
三人とも知り合いらしく輪になって鈴を鳴らすようにはしゃいでいる。

「また暫くここにいるの?」
「ううん、明後日までゆっくりしたら今度はイヴァルステッドに行く予定よ」
「ヒーラーってのは忙しいんやなー…ん、明後日? あ、じゃあ、お姉っ」
「うん、私も同じ事思った。――ライアー」

ふとミラさんとモニカさんが目を見合わせると、私を手招いた。
一歩下がったところで三人のやり取りを見ていたため、急に私の名前が出たことにやや驚きながらも誘われるまま傍に寄る。ふと女性と目が合うと、緑の目が優しげに細められる。

「紹介するわ、この子はライアー。今依頼を受けて一緒に居るの」
「そんであーちゃん、この人はセラって言うてね、ヒーラーやっててウチら何度も助けてもろた事があるんよ」

よろしくお願いします、と頭を下げるとセラさんもふわりと頬を緩めて返してくれた。
ヒーラーは体だけじゃなくて心も癒せるのかな、なんて思ってしまうような笑顔。

「それでね、セラ。お願いがあるんだけど…私達、明日の朝、エンバーシャード鉱山の山賊達を討伐しに行かなきゃいけないの」
「その間あーちゃん一人に出来へんから、傍におってくれへん?」 

そのまま二人が私をリバーウッドまで連れてきてくれたこと、宿で働きたかったがデルフィンさんが不在のためそれが叶いそうにないことを、記憶喪失だという点だけを抜いて説明してくれた。
確かに宿の中は安全だろうけれど一人で待つのは心細かったし、けれども二人についていくなんて言えるはずもなく。

「それぐらいならお安い御用よ。私も話し相手が出来て嬉しいわ」

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「あ、ありがとうございます…!」

気安く頷いてくれたセラさんにほっと胸を撫で下ろす。

「ありがとう、セラ! やっぱり頼まれたからにはきちんとしないとって思って」
「頼まれたって、首長に?」
「ううんちゃうねん、あんな―――」

とりあえず目先の問題が解消されたからかモニカさんとミラさんの二人も幾分安心した表情になるとそのまま中央の暖炉を囲んで腰を落ち着かせ、この日はそのままオーグナーさんの美味しい料理を頂きながら宿でのんびりすることとなった。
明日日が昇る前に鉱山に入るという二人はセラさんと一緒に蜂蜜酒を何本も空けてたけど大丈夫、なのかな…?


 
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